イーコラム_地球と生物の不思議

「水生人類アクア説」

人類の祖先は水中生活をしていた?  
イーコラム_地球と生物の不思議水生人類アクア説


水生人類アクア説とは?


簡単にいうと、「かつて人類の祖先は水中で生活をしていた」とか、「水辺で暮らしていた」とかいうような提唱になります。

ヒト(人類)はオランウータン、ゴリラ、チンパンジーの3属とともに、「サル目ヒト科」に分類される近縁関係にありますが、ヒトだけが直立二足歩行をする、体毛が薄い、皮下脂肪が多い、言語能力をもつ、感情の涙を流すなどの異なった特徴をもっています。
そのような特徴のちがいを、「人類の祖先には水中で生活をしていた時期があり、後に再び陸地で生活をするようになったことから、他の3属とは異なる特徴が形成されたのではないか?」と考えることが、この提唱の骨格になります。
なお、通常は水生人類説や水生類人猿説、アクア説などと呼ばれるので、以降はアクア説という呼称で書いていきたいと思います。

こう書くと、「人類の祖先は半魚人だったというのか?」というようなツッコミもありそうですが、遠からず近からずなのかもしれません。
ただし、半魚人という言葉ではなく、半水生人とか半水生類人猿といった言葉が適切になるでしょうし、1954年に公開された映画「大アマゾンの半魚人」のような、エラやウロコのあるモンスターのイメージは微塵もありません。

アクア説初期のイメージ画像「では、どのようなイメージになるのか?」というと・・・、左の画像を人類の祖先となる約500万年前の類人猿だと思ってみてください。
場所はアフリカ北東部の孤立した島で、食料となる木の実や根、果実などは採り尽くされてしまったと仮定すると、以下のようなことが考えられます。
Chimpanzee Rehab 撮影者: 「Flickr: markeveleigh」様


「餓死寸前に追い込まれた人類の祖先たちは、やむなく水中に入り、魚介類や水草などを食料として捕るようになったのではないか?」
「天敵であるヒョウやライオンなどのネコ科動物は水が苦手なので、水中は逃げ場所にもなったのではないか?」
そのような経緯から、人類の祖先たちが水中での生活をはじめたとする提唱・・・。
それがアクア説のはじまりであり、その初期段階は上の画像のようなイメージになるようです。



アクア説のはじまり!


現在のエチオピアの北東部には、「アファール低地(別名アファール盆地、アファール三角地帯)」と呼ばれる盆地が広がっていますが、海抜マイナス90〜120メートルという、海面よりもはるかに低い盆地です。
現在のアファール低地の東側には低い丘陵地帯があり、紅海からの海水の流入をかろうじて防いでいますが、約500万年前の鮮新世初期(注1)には地殻変動によって、一帯に海水が流入したと推測されています。
そのため、現在のダナキル山はダナキル島として孤立し、そこに取り残された類人猿たちがいた・・・と仮定するところから、アクア説がはじまります。
注1:海水の流入時期を、中新世末期(約670万年前〜540万年前)とする見解もある。


しかしながら、孤立した島内での食料確保には限界があります・・・。
それで、冒頭部分でも書いているように、魚介類や水草などを食料として捕るために水中に入ったり、ヒョウやライオンなどの捕食動物から逃れるために水中に入ったのではないかと推測されますが、そのような行動変化を累積的に続けた場合、どのような進化がダナキル島の類人猿たちに起こるのでしょうか?



アクア説での進化!


1.直立二足歩行
改めて上の画像を見てみると・・・、実際には現生種であるチンパンジーの画像ですが、水の中で立っています。
これは当然といえば当然で、お馴染みのナックルウォーク(拳を丸めた四足歩行)のままでは体勢が低すぎて、溺死してしまいます。
つまり、類人猿は一時的な二足歩行なら可能だということになります。

それで、ダナキル島の類人猿たちに話をもどしてみると・・・
水深の浅いところだけで魚介類などを捕るよりも、深いところにまで範囲を広げたほうが多く捕れますし、捕食動物から逃れる際にも、深いところまで逃げたほうが安全です。
より深いところにまで行くためには、水中で立ちあがって、水面から顔だけを出す体勢になりますが、水中では浮力が働き、立ちあがりを容易にするので、そのような経緯から直立二足歩行を獲得していったのではないかと推測されます。


2.体毛が薄い
3.皮下脂肪が多い

アクア説というと、どことなく怪しげで、突拍子もない異論のようにも思われそうですが・・・
現在の海生哺乳類であるクジラ類やカイギュウ類(ジュゴンやマナティ)、鰭脚類(ききゃくるい)であるアザラシ、アシカ、オットセイ、セイウチなどの祖先たちもみな、かつては陸上に生息していた哺乳類たちになるので、決して特別なことではありません。

そして、陸上から水中へと進出した祖先たちは似たような進化を遂げます。
一例として、クジラ類の進化を見てみると・・・

クジラ類の進化の画像左上の画像は、約5300万年前に出現した「パキケトゥス」の想像図です。
最古のクジラとは呼ばれていますが、体毛のフサフサとしたオオカミのような外見で、陸上や水辺にいることが多く、水中に潜るのは捕食時に限られていたようです。
左下の画像はイルカ・・・、つまり小型のハクジラ類になります。
より速く泳ぐために体型は流線型となり、体毛が消失していますが、代わりに体重の20〜30パーセントをも占める分厚い皮下脂肪で全身を覆うことによって、冷たい水温から身を守っています。
* クジラ類の進化についての詳細は、当サイト「古代クジラ」の中で書いています。

上 パキケトゥス 画像:管理人
下 イルカ
 画像: 「BLUE DOLPHIN」様


上記はクジラ類の進化の一例ですが、分厚い皮下脂肪に覆われることは、ほとんどの海生哺乳類に共通します。
一方、体毛を消失するのはクジラ類とカイギュウ類に共通であり、鰭脚類では体毛を消失するグループと、体毛を二重構造にすることによって保温効果を上げるグループに分かれます。
それで、ダナキル島の類人猿たちの場合は、水中に進出することによって体毛が薄くなり、冷たい水温から身を守るために皮下脂肪が多くなっていったのではないかと推測されます。
また、皮下脂肪は水中での浮力にもなります。


4.随意呼吸
5.言語能力

魚介類や水草などを捕るためには、水中に潜ることも必要ですが、ヒト以外の類人猿には潜るということができません。
ヒトの場合、潜る前には大きく息を吸い、水中では息をとめたり、吐きだしたりという随意呼吸(呼吸を自在にコントロールすること)ができますが、他の類人猿は随意呼吸ができないので潜れないということになります。
また、木の実や根、果実などを主食とする類人猿たちにとっては、水中に潜って食料を捕るという行為自体が不必要なことです。

一方、ダナキル島の類人猿たちの場合には、潜らなければ餓死する・・・という死活問題であったと仮定すれば、やみくもな行為の繰り返しの中から随意呼吸を獲得していったと考えることもできます。
ちなみに、陸生哺乳類であるイヌやネコなども随意呼吸ができません。
随意呼吸ができる哺乳類の代表例は、海生哺乳類であるクジラ類になります。

随意呼吸を獲得した・・・ということは、言語能力の下地ができたということになります。
たとえば、「あ〜い〜う〜」と長く発声するのと、「あっ、いっ、うっ」と短く発声するのとでは吐く息の量が異なるので、呼吸をコントロールできるということが言語能力の絶対条件になります。

もちろん、ダナキル島の類人猿たちが言語を使用していたということではなく、言語能力の礎を築いたであろう・・・というレベルにとどまります。
現代人のような表現豊かな言語を使用できるようになるためには、随意呼吸だけではなく、喉頭の位置や舌、口、声帯のコントロールなども密接に関わってくるので、人類の亜種とされるネアンデルタール人(約2万4000年前に絶滅)でさえ不完全であったと考えられています。


6.感情の涙
多くの動物が涙を流しますが、感情の涙を流すのはヒトだけであるということです。

涙を大別すると、反射性分泌と情動性分泌の2つに分けられます。
反射性分泌というのは、目にごみが入ったりした時などにで出る涙のことで、この機能は多くの動物に備わっています。
一方、情動性分泌というのは、喜怒哀楽などの感情に対して出る涙のことで、この機能はヒトに特有だといわれています。

後者の情動性分泌の起源について、アクア説では「海水域に進出した類人猿たちが、海水を飲むことによって増大する塩分を、涙として放出するようになったのではないか?」と主張していましたが、後に「証拠がない・・・」として撤回しています。
確かに、「ウミガメの涙」や「ワニの涙」という言葉はあるものの、目の近くにある塩涙腺から過剰な塩分を排出しているだけであって、実際に目から涙を流しているのではありません。
そして、そのような生理機能は上記の爬虫類や鳥類の一部にはみられますが、哺乳類にはみられません。

また、哺乳類に限れば、ラッコのような例外はあるものの、海生哺乳類でさえ海水を飲み水として飲むことはできないので、「人類の祖先たちが海水を飲んでいた・・・」とする設定にも無理があったように思います。
たとえば、クジラはエサに含まれる脂肪を分解する際に発生する水分を摂取し、余分な塩分と水分は尿として排出します。

ステラーカイギュウの画像鰭脚類であるアザラシやアシカは魚に含まれる水分を摂取し、ステラーカイギュウ(1768年に絶滅した体長7〜8メートルのカイギュウ類)は河口に流れ込む真水を飲んでいました。
* 詳細は当サイト「ステラーカイギュウ」の中で書いています。

ステラーカイギュウ 画像:管理人


上記のような書き方をすると、まるでアクア説否定派のようですが、決してそうではありません。
感情の涙のメカニズムについてはアクア説のみならず、通説とされるサバンナ説(注2)や、現代医学をもってしても完全には解明できない謎であり、以前の主張を撤回したことが、アクア説の失墜になるとは思えません。

注2:サバンナ説(サバンナ適応説)
1000万年前〜500万年前の気候変動によって、森林の消失化と草原(サバンナ)の拡大化が起こり、人類の祖先はアフリカ東部の草原で適応進化したとする提唱。場所をアフリカ東部・・・と考えることから、「イーストサイドストーリー」とも呼ばれる。
一般的にはサバンナ説を通説とし、アクア説は珍説、奇説とされる傾向にある。



7.その他
人間の手には水掻きの痕跡がある、人間の赤ちゃんは泳げる、人間は水中出産ができるなど・・・
きりがないので省略しますが、それらの特徴は水中生活での進化の名残であると考えられます。



人類への進化!


約500万年前の地殻変動によって、海水が流入したアファール低地ですが、その流入口を地塊が塞ぐような形になったことから海水の退路が絶たれ、「アファール湖」とも呼ぶべき状態になっていたようです。
そのため、元のような低地の状態に戻るには、150万年〜300万年もの期間を要したと推測されています。

150万年後に低地の状態に戻ったとすると・・・
今から350万年前のことになり、かつては最古の猿人と考えられた「アウストラロピテクス・アファレンシス(約390万年前〜300万年前)」の化石がアファール低地から発見されたことにほぼ一致します。
つまり、ダナキル島での水中生活が類人猿から猿人へと進化させ、陸地での生活に戻った彼らがアウストラロピテクスであったと考えることもできます。
一部地域では350万年前に海水が退き、ダナキル島からの撤退第1陣として、アウストラロピテクスは南アフリカにまで拡散していったのでしょうか?

同様に、300万年後に低地の状態に戻ったとすると、今から200万年前のことになりますが・・・
最古のヒト属とも呼ばれる「ホモ・ハビリス(約230万年前〜180万年前)」の化石が、エチオピアやタンザニアなどの東アフリカから発見されることにほぼ一致します。
ホモ・ハビリスは猿人と原人の中間的な段階だとされますが、ダナキル島での水中生活を余儀なくされた類人猿たちが、アウストラロピテクスへの進化を経て、ホモ・ハビリスに進化したと考えることもできます。

ホモ・エレクトスの画像そのホモ・ハビリスが、原人「ホモ・エレクトス(約180万年前〜40万年前)」に進化し、左の画像のような安定感のある二足歩行を獲得したと推測されています。
homo erectus didn't have clothes 撮影者: 「Flickr: aarrgh」様


長距離移動が可能になったホモ・エレクトスは、人類進化上では初となる出アフリカを約150万年前にはたし、ユーラシア大陸での北京原人やインドネシアでのジャワ原人になったと考えられています。

その後をアフリカ単一起源説にもとづけば・・・
ホモ・エレクトスはアフリカで「古代型ホモ・サピエンス」に進化し、ユーラシア大陸へと進出していきますが、さらなる「現代型ホモ・サピエンス」への進化もアフリカでおこなわれ、約6万年前までには出アフリカをはたしたと考えられています。
その後、約3万年前にはアジア〜シベリアに進出。
さらに、ベーリング陸橋を渡って北アメリカ大陸に進出し、遅くとも約1万2000年前までにはパナマ地峡を渡り、南アメリカ大陸に到達したと考えられています。
* 詳細は当サイト「ベーリング陸橋」や「パナマ地峡」の中で書いています。


つまり、アクア説では人類の祖先をダナキル島での水中生活を余儀なくされた類人猿たちだと仮定し、「かつて人類の祖先は水中で生活をしていた」と提唱します。



あとがき・・・


現在の人類進化史
アクア説の提唱者としては1942年のマックス・ヴェシュテンヘーファー(ドイツ)や1960年のアリスター・ハーディ(イギリス)、1972年のエレイン・モーガン(イギリス)などの名があげられ、このページはエレイン・モーガンの自著である「女の由来−もうひとつの人類進化論」や、「人は海辺で進化した−人類進化の新理論」が下地になりますが・・・
上記の時代の定説では、アウストラロピテクス属が「最古の人類」とか「最古の猿人」ということになっていたので、このページもアウストラロピテクス属に進化する類人猿たちを人類の祖先として書いています。

アウストラロピテクス属の化石は、1924年に南アフリカで発見されたアフリカヌス種をはじめとして、愛称ルーシーで知られるアファレンシス種が1974年にエチオピアで発見されていますが、アウストラロピテクス属よりも古い人類の化石がなかなか発見されなかったことから、約70年間ほどは「不動の最古の人類」とも呼ぶべき存在でした。

ところが、1992年にエチオピアの約440万年前の地層からラミダス猿人(アルディピテクス・ラミダス)の化石が発見されたことや、最古のアウストラロピテクス属となるアナメンシス種の化石が、1994年にエチオピアの約420万年前の地層から発見されたことなどから、現在では「ラミダス猿人からアウストラロピテクス属に進化した」と考える傾向にあります。

ラミダス猿人の化石はエチオピアのアファール低地から発見されているので、ダナキル島の類人猿たちがラミダス猿人への進化を経て、アウストラロピテクス属に進化したと考えることもできる地理的範囲と年代的範囲にありますが・・・
2000年代に入ると、地理的にも年代的にも、ダナキル島で進化したとするには無理のある化石の発見が続きます。

たとえば、2000年にケニアで発見された「オロリン・ツゲネンシス(愛称ミレニアム・アンセスター)」は約600万年前の猿人だといわれ、2001年にアフリカ中部のチャド共和国から発見された「サヘラントロプス・チャデンシス(愛称トゥーマイ)」は約700万年前の猿人だといわれています。
また、同じ2001年にエチオピアの約580万年前〜520万年前の地層から発見された化石は当初、ラミダス猿人の亜種だと考えられていましたが、後に新種となる「カダバ猿人(アルディピテクス・カダバ)」と名付けられ、ラミダス猿人とともにアルディピテクス属を構成します。


私見
「そうなると、この長ったらしいページは何だったんだ。地理的にも年代的にも設定に無理があるじゃないか、アクア説は破綻だな!」ということにもなりかねませんが、管理人個人は、トゥーマイなどの発見がアクア説の破綻になるとは思えません。
むしろ、トゥーマイなどの発見がマイナス要素になるのはサバンナ説であり、アクア説にとってはプラス要素にさえなるのかもしれません。

たとえば、化石などから推測される当時の生息地域は、ラミダス猿人がエチオピアのアワシュ川中流の森林であり、トゥーマイはチャド湖の湖岸(当時は現在の約80倍の大きさ)であったとしています。

英科学誌ネイチャーの2005年4月7日号では、「化石:チャドの中新世後期層で出土した最古の人類の新資料」という記事が発表され、その表紙(左図)はトゥーマイが水のあふれる湿地帯で暮らしていたことを示唆するようなレイアウトになっていました。
Nature:Volume 434 Number 7034 (7 April 2005) 画像: 「Nature Asia-Pacific」様


また、ミレニアム・アンセスターの化石はケニアのバリンゴ湖西岸のツーゲンヒルから発掘されており、当時は森林だったと推測されています。
カダバ猿人の生息地域も当時は森林だったと推測されており、「人類の進化には水辺や湿潤な森林が関与していた」と考えることもできます。

管理人個人は、「ヒトは海辺で進化した・・・」ということには、飲み水などの問題から疑問もありますが、「ヒトは淡水の水辺〜岸辺で進化した・・・」ということであれば、アクア説の肯定派にまわれます。
ですので、文中では海辺や海中という言葉は最小限にして、水辺や水中という言葉を使用しています。
また、場所をエチオピアのダナキル島に限定することにも固執しません。

人類の祖先は淡水の水辺〜岸辺での暮らしを基本とし、湿潤な森林を行動範囲内にしていたのでしょうか?
そして、汽水域や海水域にまで遠征する集団がいたのでしょうか?


参考サイト
未来航路人類はどこで誕生したか2 アクア説の登場」様
TOKADAニラの人魚 第一章 5 (Aquatec Ape 水棲原人)」様
福山眼科涙・ドライアイ・流涙症など」様
子どもクジラ研究室クジラは海水から水分を得ているのですか?」様

2009/06/24 NEW (イーコラム_地球と生物の不思議)
2005/08/08 旧サイト


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